岐阜県建築士会 まちづくり委員会

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ぎふHM 2023年度

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令和5年度 HM 第7日目

テーマ:世界・日本遺産、文化的景観、民俗・無形文化財について、

    記念物(史跡・名勝・天然記念物・埋蔵文化財)について(講義)

    文化財(建造物)登録の実務について(講義)

    「私たちの見つけた登録文化財」の発表について(講義)

日時 :令和5年8月19日(土) 13:00~17:10

場所 :ワークプラザ岐阜 4階

参加者:22名

 

世界・日本遺産、文化的景観、民俗・無形文化財について、記念物(史跡・名勝・天然記念物・埋蔵文化財)について(講義)

 岐阜県文化伝承課 伝統文化財 主査 川瀬健秀氏 に講義して頂きました。

 

川瀬健秀氏の講義風景

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 前半は、「世界遺産、民俗・無形文化財、記念物(史跡・名勝・天然記念物)、重要文化的景観、埋蔵文化財、日本遺産」について、今までの講義の復習になる基本的な説明から始まりました。平成7年に世界遺産に登録された「白川郷・五箇山の合掌造り集落」が、三つの集落を内包する「シリアル資産」であり、その景観を守る為に、「緩衝地帯(バッファゾーン)」の設定があり、厳しく開発が制限されている緩衝地帯Ⅰ種、ある程度の開発制限が有る緩衝地帯Ⅱ種の指定があることを知りました。又、その面積が、遺産面積に対して、Ⅰ種で60倍以上、Ⅱ種では800倍以上の面積を有していることを説明して頂きました。「白川郷・五箇山の合掌造り集落」を維持するために制定された住民憲章や、伝統的互助システム「結」などの特徴を説明頂き、同時に課題として、オーバーツーリズムによる交通渋滞や、地域の少子高齢化の急激な進行により、住民憲章の堅持が今後困難となる可能性がある事、放水銃等の防火設備の老朽化等の設備投資の負担など、今後対処すべき問題点を説明頂き、世界遺産だからと言って、維持し続ける事の難しさを知りました。

 今回は、有形文化財以外の無形文化財、民俗文化財についても講義して頂き、その地域の「風俗風習や民俗芸能」など、地域が担い受け継いできた生活の中にこそ、意識して後世に伝承しなければならない文化が有る事について教えて頂き、それらが有形文化財(建築物、美術工芸品)の存在に繋がることも、学びました。

 

川瀬健秀氏の講義風景

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 川瀬氏の講義の後半は、「記念物」「文化的景観」「日本遺産」等の概要について、講義頂きました。

 「記念物」には、「史跡」「名勝」「天然記念物」「登録記念物」が有り、「史跡」には、縄文・弥生・古墳・古代・中世・近世、各時代を反映したそれぞれの史跡が有り、「名勝」には、木曽川などの自然名勝や、永保寺庭園などの人工名勝が有る事を学びました。

 「文化的景観」とは、地域における人々の生活、生業、及び、当該地域の風土により形成された景観で、生活・生業を理解するために欠くことが出来ないものである事。又、「日本遺産」は、文化財保護法による文化財の体系図に含まれていないが、地域の歴史的魅力や特色を通じて我が国の文化・伝統を語るストーリーとして、文化庁が認定するものである事。岐阜県にも正法寺(岐阜大仏)など、4件が認定されていることを学びました。

 「埋蔵文化財」は、文化財保護法による文化財の体系図に記載がありますが、文字のごとく埋蔵されているもので、保護される文化財であるが、先の文化財の体系図のツリーには繋がらず、独立している事を学びました。

 

文化財登録の実務について(講義)

 あいちヘリテージマネージャー 後藤文俊氏 に講義して頂きました。

 

後藤文俊氏の講義風景

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 第4日目に続き、あいちヘリテージ協議会のかたに講義をして頂きました。

 前回の復習を兼ね、登録候補の選定から、登録有形文化財登録まで、タイムスケージュールに沿った流れを説明頂き、その後、後藤氏がヘリテージマネージャー養成講座を受講した際「私の見つけた登録文化財」の課題で、後に、実際に登録有形文化財に登録となった「野間郵便局旧局舎」の実例を使って講義して頂きました。本講習同様に、5~6人のグループに分かれ行った課題の実例で、選定から講義発表までの流れ、更に、本登録までの流れ、登録後の活用等、大変貴重な実例の資料と話を聞くことが出来ました。

 建物の調査は、物理的な調査のみならず、その歴史を含めて調査を行う大切さや、建物のみでなく、地域の歴史と建物の関りも同様に調査することで、登録有形文化財登録の条件の一つである「国土の歴史的景観に寄与しているもの」に対する所見に反映することが出来るなど、本講座の課題に対する取り組み方法のアドバイスを受ける事が出来ました。又、登録申請の際、撮り直しとなった書類添付写真と、修正後の写真を併せて表示して貰い、今後の資料添付用の写真撮影方法の一助となりました。

 課題発表終了後、建物所有者に同意が得られれば「登録候補物件」として登録に進めたいとの意思を伝え、所有者を説得する際に、登録有形文化財の優遇措置を説明するなどのアプローチの仕方をお聞きしました。更に、登録後の建物保存会の設立や、地域のイベントの開催などの、利用活動についても、話を聞くことが出来ました。

 

「私たちの見つけた見つけた登録文化財」の発表について(講義)

 「私たちの見つけた登録文化財」の発表について

  ぎふヘリテージマネージャー協議会 桂川麻里氏

 「登録文化財(建造物)意見具申資料」の作成について

  ぎふヘリテージマネージャー協議会 田中伸裕氏 

 

桂川麻里氏・田中伸裕氏の講義風景

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 本講座最終課題の「私たちの見つけた登録文化財」の発表について、昨年度の講座に於いて使用した発表資料を用い、実演して頂きました。

 パワーポイントの作成内容や、発表の流れ、時間配分はもとより、注意すべき資料の内容や、調査すべき事項などを知ることが出来ました。又、役所などの調査先では、煙たがられ、対応が厳しかったことなど、経験者でしか語れないことをお聞きすることが出来ました。

 発表の内容の建物は、建築関係者が知っている人が多いとは言えない物件で、改めて埋もれている文化財が各地に点在していることと、それらが滅却しつつ在る現状に、考えさせられました。

 次に、本講座で課題として提出する「登録文化財(建造物)意見具申資料」について、昨年度の講座での資料を使い、記載内容や、作成に関する注意事項を説明して頂きました。

 これは、表紙、所見、建物概要、特徴、評価等の文書による書類、添付図面、写真帳、など、実際に登録有形文化財を申請する際に提出する書類です。文書書類はA4用紙で2頁位に収めるのが望ましいため、対象物の魅力・歴史背景、建物の特徴をいかに簡潔、且つ正確に伝えるかが重要であり、資料の収集と吟味が大切である事を学びました。

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令和5年度 HM 第6日目

テーマ:1.国・県指定文化財(建造物)について(講義)

    2.登録有形文化財(建造物)について(講義)

    3.建築基準法第3条の解説と現状の報告(講義)

日時 :令和5年7月22日(土)13:30~16:20

場所 :INNOVATOR'S VILLAGE セミナールーム

参加者:23名

 

外観 INNOVATOR'S VILLAGE(技研G)     内観 コワーキングスペース

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ガイダンス

 岐阜県建築士会の石黒会長から、本日の会場コワーキングスペース(とてもモダンなワーキングS)の説明と挨拶がありました。ヘリテージマネージャー(以下HM)を育成するための本日の講習会の進め方、配布資料の確認、本日の3テーマについて、又、本日の先生方の紹介からスタートしました。

 

A班の当番 受付(資料配布と参加者確認)

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1.国・県重要文化財(建造物)及び国・県補助事業

 本日は岐阜県環境生活部 県民文化局 文化伝承課 伝統文化係 主査 吉村晶氏に「国・県重要文化財(建造物)及び国・県補助事業」について講義を受けました。

 国宝は重要文化財のうち極めて貴重な文化財建造物。後世に護り伝えていくためには、修理を重ねながら保存・活用に努め、適切な修理を絶えず繰り返す基本は変わりありません。建造物では一定年数ごとに屋根の葺き替や、解体修理を一定の周期で行わねばなりません。方法論は数多く在ります。しかし重要文化財は毎年新規の指定案件!増加の一途です。なお一層の組織の強化及び、県の補助事業として上限の見直し等も含めて検討が今後必要かと思われます。

 重要文化財の大半が木造でとても燃えやすく、火災から守るため自火報設備、消火設備、避雷設備は益々重要となり、耐火構造の収蔵庫の完備等、客観的にも考えなければなりません。HMとして活動することは、社会にとっても自分にとっても意義深いものだと感じています。

 

岐阜県伝統文化係 吉村晶氏の講義を受講    二時限目も吉村晶氏の講義を受講

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2.登録有形文化財(建造物)及び登録の各種手続き

 本日は2限目も、岐阜県環境生活部 県民文化局 文化伝承課 伝統文化係 主査 吉村晶氏に「登録有形文化財(建造物)及び登録の手続き」について講義を受けました。

 この制度は一定の評価を得た案件で、重要文化財よりかなり緩やかな制限によって(金銭的補助は薄い)文化財の保護や活用を利用する方法です。登録された建物は機能の追加はかなり自由度があり、所有者の意向を幅広く活用できるのが最大のメリット。外観は残し内装は普通に使えるのです。登録の基準は原則50年を経過し且つ、次のいずれかに該当するものとします。①国土の歴史的景観に寄与しているもの。②造形の範囲となっているもの。③再現することが容易でないものです。

 登録後の各種手続きで必要な場合は、滅出、毀損、現状変更。管理責任者の選任解任。所有者、管理責任者の変更。所有者、管理責任者の氏名、名称、住所の変更があり期限の定め又、罰則も定めています。尚、非常災害時等は届出が不要となっています。その他本年度の登録有形文化財補助事業には補助率、補助額等今後の所有者には必見です。文化財の保護等自らの文化的な基盤を維持し、これを発展させる上で重要であるばかりでなく、世界の文化の多様な発展に寄与することになります。

 

岐阜県建築指導課 吉田尚弘氏の講義を受講   全景 セミナールームでの受講

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3.建築基準法第3条の解説と当該建築物について(講義)

 岐阜県建築指導課 技術課長補佐兼指導係長 吉田尚弘氏に建築基準法第3条の解説と当該建築物について講義を受けました。法第3条の内容と主な関係法令の一部を示します。

 

〇法第3条第1項は国宝、重要文化財等は自動的に建築基準法を適用の除外に。他、同2・3項

 は自治体が指定する文化財、歴史的価値ある建築物は、建築審査会の同意を得て適用の除外が

 可能となる。また構造耐力規定、避難関係規定が適用されない既存不適格建築物については構

 造的に分離し遡及適用の対象としなくても良い。

〇構造耐力関係、防火関係、用途地域関係、容積率関係の規定に適合しない既存不適格建築物等

 について政令で定める範囲内は遡及適用しない。特例の対象となる増築等の範囲を定めている。

〇既存不適格建築物(第87条)建築完成時の旧法の基準で建てられた建物は、その後法の改正で

 既存不適格も、政令の範囲内で遡及適用は不要となります。

〇既存不適格建築物の用途変更(法87条第3項)

 ・既存不適格建築物を用途変更する場合、用途変更時に既存不適格遡及の工事を行う必要があ

  る。

 ・増築等を行う場合は所定の条件を満たせば全体計画認定を活用することが可能となります。

 建築基準法の改正2025年施行は 4号特例 縮小で廃止され構造計算の義務化、確認申請の提出

 等木造住宅の安全性確保へ、省エネ対策の推進と木材利用の促進が進められています。

                               第6日目の育成講座は以上

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令和5年度 HM 第5日目

テーマ:文化財建造物の防災・減災について及び災害時の対応について(講義)

    文化財建造物の耐震対策について補強・修繕の要点を学ぶ(講義)

日時 :令和5年7月8日(土)13:00~17:10

場所 :講義 岐阜県水産会館 中会議室

参加者:23名

 

文化財建造物の防災・減災について及び災害時の対応について(講義)

 岐阜大学准教授 村岡治道氏に講義して頂きました。

 

村岡治道氏の講義風景

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 村岡氏は防災コンサルティングの経験を活かし、3歳児から高齢者まで幅広い層に防災の講義をされているそうです。防災の観点から考えると、建築士として公共施設を設計する際は、デザインに走らず避難しやすいものにして欲しい、非構造物・ガラスが災害時に凶器とならないような計画をして欲しいと話されていました。

 これまでの災害では、がれきと一緒に文化財が埋もれてしまい、それを判別できない為に消失してしまったものもあるそうです。その為に災害時の保存の対象を「未指定文化財」にまで拡充されており、地域の誇りである(代替不能)な文化財を消失させない為にどうすれば良いか、ということが今後の課題として挙げられているそうです。

 「災害対策基本法」では国と各都道府県が防災計画を作成し、それに沿って対策が取られるので、我々はその計画を把握しておく必要があると話されました。このことは、後でも何回か口にされていましたので、我々がヘリテージマネージャーとして活動する場合にまず確認し、ある程度理解しておくとが大切なのだと思います。

 「防災」と「減災」についてのお話をいただきました。

 用語の定義として「防災」とは災害を未然に防止し、被害の拡大を防ぎ、復旧を図ること。

 (復旧はぼうさいなのか疑問だと話されましたが・・・)

 国が作るものは「防災基本計画」で、それを基に都道府県がつくるものを「地域防災計画」と呼ばれる。

 「災害応急対策」とは、災害の発生を防御し、災害の拡大を防止する。

 文化財に限ったことではありませんが、古い木造建築では電線等の劣化や、知識のない方がやってはいけないことを行い、地震での倒壊や漏電火災に繋がることがあります。文化財は往々にして古い木造建築物が多いので、そうした防災の知識も必要になってくるのだなと思いました。

 国、県は文化財の台帳を作成し、管理者は県に被害状況を報告しなければいけないので、我々は行政や持ち主、管理者に対し、様々な知識、経験を活かして適切にアドバイスをすることが求められます。

 「減災」の「災」とは自然災害ではなく、自分に降りかかる「災い」として考えた方が良い、そして「減」とは全てを「防ぐ」つもりでいなければいけない(必ず漏れが発生する)とお話されました。

 「縮災」とは被害後の速やかな回復で被害額を極力減らすことである。

 発災の瞬間は「自助」しか出来ない、自助をしていなければ「共助」も出来ない、役場でも防災教育をしっかりとしていないので「公助」も出来ない。その為に国民一人一人「自助」をする必要があり、その為の備えをしておくことが何より大切であるとの事でした。

 村岡氏が考える「防災の本質」について教えていただきました。

 防災とは、自分で自分の命を「守る」ではなく、「守っておく」と考えることが大切で、災害が起こった後の行動は、何かを失った後であるので「敗戦処理」だと考えているそうです。

 プロアクティブの原則として以下の3つを上げられました。

① 疑わしいときは行動せよ 様子を見るな!確立や妥当性を論じるな!

② 最悪の事態を想定して行動せよ 「まさか!」と思うような物語を考えろ!

③ 空振りは許されるが、見逃しは許されない 何かあってからでは手遅れ!

 その判断は発注者に任せることになりますが、命に係わるようなことは、最悪を想定して例え可能性が低いとしても行動し、言うべきことは言い、極力被害が少なくなるように行動すべきです。

 ここからは実際の事例を基に、我々が持ち主、管理者へすべきアドバイスや段階毎の課題についてお話いただきました。

 文化財であっても災害時には安全配慮義務があるので、震災時の倒壊予想を行い、避難経路を指示する必要があります。また防災訓練については、現実に被災したことをイメージして取り組むべきです。

 段階毎の課題として、事前予防段階では災害復旧事業の方針やインベントリー(台帳)システムを作成し、マンパワーを解消する為広域連携による運用手法の開発も必要となります。

 応急対応段階では指定、未指定の区別なく、同時に調査する必要があり、復旧・復興段階では早急な復旧要請と慎重な調査との軋轢の解消(状況により変化)があります。

 最後に2つの震災の被害調査と復旧の事例をご紹介いただき、震災時に気を付けるべき点をお話しいただきました。

 (阪神・淡路大震災)では、多量の未指定文化財を取捨選択することの必要性が分かりました。そして専門職の絶対数が不足していた為、増員が必要となり、ヘリテージマネージャーが進められたそうです。

 (熊本地震)では、HMの派遣協力要請を単県士会ではなく、連合会に出すことで円滑に対応出来ました。初動は各都道府県での対応となるので、HMの人数確保に課題があるそうで、この講習は大切なものだと改めて感じました。

 制度を作るのは国や県であるが、それを活用する復旧に向けた助言等の支援助言が出来るのはHMですので、しっかり学ぶべきです。

 災害時に気を付けるべき点としては、地震発生時の避難誘導があります。

 本棚が倒れる、また建物が倒壊するまでの時間は5秒程度ということで、文化財であっても耐震補強について考え予見と回避が大切となります。

 車輪が付いているものは地震時動き続け、物は飛んでいく。技術者として正しく予見し、避難ルートの確保が出来るよう正しく提案する必要性を教えていただきました。

 誘導しやすいように安全スペースを点在させ、そこにいる方、働いている方にも周知する必要があります。

 文化財に対して想定出来る全ての技術的助言を提案する、それを予算等で選ぶのは管理者である。

 

文化財建造物の耐震対策について補強・修繕の要点を学ぶ(講義)

 岐阜県森林文化アカデミー教授 小原勝彦氏に講義して頂きました。

 

 建築基準法では中地震に対しては、地震後も建物を継続して使用できること、大地震に対しては、建物が崩壊しても人命を守ることを目的としています。

 現状の耐震診断では震度5程度で損傷防止は求められていません。

 文化財の基礎診断では3つの水準が設けられていますが、専門診断では細かい水準は定められていない。

 構造要素毎の考え方を教えて頂きました。木造では接合部が一番大切であるそうです。

 耐力壁が柱のない梁上に乗っていると、梁せいをかなり大きくしなければいけなくなり、梁上耐力壁は50~70%の低減があるそうです。

 梁等の横架材は欠き込みが多くされている為、注意が必要となります。

 たわみ制限は基準では1/250以下とされていますが、実地では1/300や1/400で検討される方が多いとの事。

 新築の基準を文化財にも適用するのが正しいわけではないが、基準として確認しておくべきです。

 常時微動測定とは建物の固有振動数を計測することで、建物の全体的な傾向を示すことができます。

 固有振動数が大きい程、壁量充足率が高く、損傷程度が軽くなるそうです。

 (震度7想定で3.0Hzでは大破、6.0Hzでは軽微な損傷となる)

 常時微動測定を行うことで、限界耐力計算と同等程度の荷重変形曲線を得ることが出来るそうです。

 ここから、耐震補強事例を交えながら耐震補強の効果検証のお話を伺いました。

 

 本日の両名の講習で、文化財建築物だから災害時に建物に影響が出て、人に危険を与えても良いという事はないので、価値を残しつつ耐震性をいかに上げるか、いかに防災対応するか、深く考えていかなければいけないということを学びました。

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令和5年度 HM 第4日目

テーマ:岐阜公園三重塔の設計解説及び実地研修、登録有形文化財の実務について

    国登録有形文化財、岐阜公園三重塔について心柱や搭の構造などを学ぶ(講義)

    申請の実務(文化財建造物の申請について学ぶ)(講義)

日時 :令和5年6月24日(土)12:00~17:10(12:00~13:00 歴史博物館見学)

場所 :講義・実地研修 岐阜市歴史博物館 1階講堂・岐阜公園内 三重塔

参加者:24名

 

岐阜市歴史博物館の見学

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三重塔整備の過程DVD鑑賞

 平成27年に行った三重塔修復工事についてDVDにて改修内容を確認しました。長良橋の古材(杉材)を利用して作ったことや、川合玉堂が建築場所を選定したなど当時の文化人も参加して市民による市民もための三重塔だということを知りました。搭の構造様式は櫓構法、懸垂式(心柱が浮いている)であるなど基本的な部分を学びました。大正6年建立(建立から約100年)平成17年登録有形文化財登録、平成27年修復工事開始、平成29年修復工事完了。建物解体前に実測調査や塗装調査を行い、建立当時の色彩などを確認することで、今回の修復で当時の色合いを再現することになったなど、100年の歴史を感じる瞬間でした。解体は構造部材一本一本を丁寧に解体し採寸を行い再利用できる木材は再利用するなど、出来る限り建立当時の部材を残す努力をしていました。驚いたのは瓦に関しても一枚一枚打診検査などをして再利用できるものは再利用するなど、文化財の修復が住宅などの一般的な改修や改修作業と異なることがわかりました。

 

はじめの挨拶                DVD鑑賞

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岐阜公園三重塔の修復について(講義)

伊藤平左衛門建築事務所 望月氏に講義して頂きました。他、岐阜市文化財保護課 川合主任主事、歴史まちづくり課 桑田係長・芳村主任も一緒でした。

 

■日本建築の伝統様式について

 はじめに日本の伝統的な建物構造の話をして頂きました。日本での建物の構造は扠首構造から始まりました。安定した構造の為、比較的近年まで扠首構造は使われていました。簡単な扠首構造から中の空間を広くするために、柱が補強材として使われるようになる→竪穴式住居への進化、柱を地面に直接刺すことで建物の脚が固まるため地震に強い建物となる→より広い空間を中に作るために柱材で空間を広くする高殿となる→大陸から礎石の上に柱を立てる、軒を出す建物が伝来した。柱の足元が不安定になるため、柱が太くなった(柱で支える建物へ)→神殿造りの誕生、日本建築の原型の誕生

→大仏様 貫を柱に構造の誕生により建物強度が上がり、柱を細くできた。貫は伝統様式の重要な九蔵部材

 このように日本の伝統的建築はその時代時代の用途にあった建て方を試行錯誤しながら進化を続けてきたことが分かりました。

 

■折置組と京呂組

  伝統的な建物に多い折置組は柱、梁、桁が重ねホゾで桁まで抜いている。構造的には強い

 が平面プランが単純になりやすい。近代の建物に多い京呂組は平面プランが比較的自由(梁の

 位置が自由)だが構造的には折置組の方が強い。

 

■桔木と組物

  小屋裏に桔木(はねぎ)があることで軒を深く出せるようになった。軒の出と小屋裏は支点

 になる桁から1:2の天秤となってバランスを取っている(屋根の重みで押させている)。

  組物も軒を深く出すための技術。屋根の荷重をいなす役割がある。

 

■岐阜公園三重塔改修について

  三重塔は心柱が構造上重要だと思われているが、実際は四天柱が構造上は重要であり、心

 柱は宗麟を支えているだけの役割だという説明でした。岐阜公園の三重塔の心柱は鎖で吊り

 下げられているため、柱の足元は浮いていることこで驚きました(見学にて確認)。三重塔の

 構造部材は橋の古材を利用して作っているため、寸法が足りなかったり、ボルトの穴が開い

 ていたりと、構造的に無理をしていたため改修前は軒先が垂れており、つっかえ棒で支えて

 いたとのことでした。今回の改修では、つっかえ棒は無くしたいという市の要望があったと

 のことです。構造計算は限界耐力計算より上位の解析となる時刻歴応答解析で検討したとの

 ことです。より補強箇所が少なく済むのがメリットとのことでした。

  木造は現代の技術が一番すごいと思われていますが、過去の方が質も量もレベルが高いと

 いう言葉が印象に残りました。文化財は木構造が素晴らしいから残っているとも言えるのだ

 と思います。

 

講義の様子

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岐阜公園三重塔の見学(実地研修)

 実際の三重塔内部の見学をしました。工事中の苦労など望月さんから説明して頂きました。心柱は上部2か所で吊られているだけの為、地面から浮いている状態でした。実際押してみるとゆっくりと揺れました。構造補強は見た目では分からない部分でされており、文化財の修復が一般的な改修とは違い、難しい工事であることが分かりました。実際に近くでみると三重塔の複雑な構造が分かり、これを解体して新たに組み上げるという工事が出来る技術が、まだ日本にあることに驚きました。

 

見学の様子

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登録有形文化財の申請について(講義)

 NPO法人あいちヘリテージ協議会 理事 川口亜希子氏より講義して頂きました。

 

 はじめに川口先生が登録に関わった物件の紹介がありました。文化財登録までに平均で2~3年程度掛かるということで、登録の仕事は時間の掛かる仕事だということが分かりました。また所有者と市町村などとの調整が重要で、登録までのマネージメントが一番大変だとのことでした。登録有形文化財に申請できる審査基準は下記の通りです。

 築後50年以上の建物

 ① 国土の歴史的景観に寄与

 ② 造形の規範となっている

 ③ 再現することが容易でない

 どれかに当てはまる必要がある。その登録に値するかの判断が難しい。

 現在までにNPOでは16箇所48件の登録をしてきた。

 

■登録までの費用について

・実査に来るまでの作業費 25,000円

 →実査までの資料作りが提出書類全体の8割ぐらいの作業量がある。

・登録費用として30万円(2階建て100平米まで)

※実査・・・文化財登録が実際に現地にきて調査すること

※実査当日に登録文化財の申請を進めて良いかどうかの合否がわかる

 

■登録有形文化財登録申請について

  作成書類(A4統一)の書式や必要な図面などを講義して頂きました。

 詳しくはこちらから↓(登録有形文化財の手引き) https://www.bunka.go.jp/seisaku/bunkazai/shokai/yukei_kenzobutsu/toroku_yukei_tebiki.

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  写真の撮り方や建物求積の方法(基本建築面積)、所見の書き方などルールがあるため、上記

 の手引きを確認しながら作成する必要がある。所見の作成が一番難しく、建物の時代背景や建

 物の特徴などを端的にまとめることが出来るようになるためには、自分で数件まとめてみるこ

 とが必要になると感じました。

  申請書類は数回のやり取りを経て書類提出から7~9カ月で答申(ほぼ確定の状態)、その後

 3~4カ月で文化財の登録完了となる。皆さんが見慣れている登録有形文化財のプレートは登

 録完了後から1カ月程度で所有者のもとに届くということでした。

 

■登録有形文化財登録後について

  現状変更(登録時から)があれば届出が必要になる。届出をしないで工事などを行った場合は

 罰則あり。届出のことを知らない所有者なども多いため、しっかりと所有者に伝えることが必

 要だと感じました。登録後もヘリテージマネージャーとして建物に関わっていく必要があると

 感じました。指定文化財になる場合などは登録の抹消が必要になる。

 ※外観で1/4以上変化ある場合は変更の届出必要

 

質疑応答

・登録文化財の申請に必要な図面は平面図、配置図程度 場合によっては立面図など他の図面も

 求められる。配置図は正確な測量図まで求められない。

・建物が建てられた年代の確認は、小屋裏の棟札が基本となるが、棟札が無い時は固定資産課

 税台帳より築年数を確認している。

 ・愛知県ではヘリテージマネージャーが登録申請できる(県によって違う)

 

講習の様子

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令和5年度 HM 第3日目

テーマ:「伝建地区の登録の経緯および保存、活用ほ方法・考え方、課題等」

日時 :令和5年6月10日(土)10:00~15:00

場所 :午前講義      美濃市健康文化交流センター 2階会議室

   :午後講義・実地研修 伝建地区散策、

              美濃和紙あかりアート館、旧今井家住宅(美濃市指定文化財)

参加者:20名

 

次回のガイダンス

 令和5年6月24日(土)開催の第4回講座(岐阜市歴史博物館)の説明を行いました。

 

講義の様子                 ガイダンスの様子

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「伝建地区の登録の経緯および保存、活用の方法・考え方、課題等」(講義)

 美濃市教育委員会 人づくり文化課 文化財係 係長 石井里英氏、梅村侑希氏に講習して頂きました。

 美濃市の歴史、伝建地区の登録の経緯、活用方法、現在および今後の課題等について、お話しして頂きました。

 まず初めに、梅村氏による美濃市の町並み形成の時代背景について講義をしていただきました。

 1.美濃市の町並みが形成された背景

  ・現在の美濃市の町並みの基礎を作ったのは、1600年関ケ原の戦いで東軍についた金森長近

   が論功行賞により美濃を得る。その際、現存の城が領地経営に不便とみて、小倉山に新た

   に城を築城した。その際整備された城下町が、現在の町並みとなる。

 2.町並みと歴史

  ・長良川に近く、街道が整備され集約された立地から水運、陸運どちらの交易でも栄えた。

  ・当時より名産品である美濃紙のほか、糸や酒などの商家も栄えた。

  ・明治以降には洋風建築も増え、昭和の戦後の経済発展から、その商売に適した近代建築も

   増え、町並みに変化が見えるようになった。

  ・昭和末期に、町並みが注目を浴び、現存する建築物の保存活動が本格化する。

 3.紙とうだつ

  ・美濃周辺で生産された美濃紙を卸す紙問屋が栄えた。

  ・栄えた商家によって、うだつが設置されるようになり、うだつのある家が増えた。

  ・上記のことを加え、度々火災があったこともあり、うだつの重要性も高かった。

 4.町並みの現状

  ・現在の町並みは、町ごとに景観が異なる。旧今井家住宅(美濃市指定文化財)周辺は、比較

   的古い町並みが保たれているものの、建物の近代化、空地化により景観が崩れた地域もあ

   る。

 5.町並みの特色

  ・城下町として形成されているが、一般的な城下町と違い、防御よりも商業、利便性を優先

   した町づくりとなっている。

  ・町並み最大の特色は、全国的に見ても数多くのうだつが残されている。

  ・町並み自体が、度々火災にあっていることから、防災の面でうだつは重要視されている。

   その中でも、力のある商家は豪華絢爛なうだつを設置し、一種のステータスとなってい

   た。

 

 続けて、石井氏より美濃市の伝建についての選定経緯、保存状況、現行の問題点等を講義していただきました。

■伝建についての選定経緯

 昭和50年代に、町並みとしての価値を再認識され始める。この価値の見直しについては、地元の人々ではなく外部の人々が町並みの形成を歴史的にも価値のあるものではないかと議論を呼んだ。

 しかし、当時の美濃市としては高度成長期の波に今一つ乗り切ることができずに、町の空洞化や近代的発展に課題を残していた。

 そんな中に、昭和60年に美濃青年会議所が、空家状態の今井家住宅を清掃し、公開する。

 その後、昭和63年に「町並み審議会」を設置し、町並みの保存法について諮問する。

 平成元年に、名古屋大学教授の協力のもと、町並みの調査が始まる。その調査結果をもとに、平成2年に「町並み審議会」が美濃市長に町並み保存の必要性を答申する。

 これにより、平成4年旧今井家住宅を含める5連棟を修復する。(現在の町並みの中で、一番古い形態を残している。)

 平成8年  美濃市伝統的建造物保存地区条例を制定

 平成10年 伝統的建造物該当物件の調査

 平成11年 国の重要伝統的建造物群保存地区の選定を受ける

 以上のように、美濃市として独自に町並み保存について策定し、保存、修復を行ってきました。その成果もあり、重要伝統的建造物群保存地区の選定を受けることができました。

 

■伝建地区の修理・修景について

・伝建地区内には、大きく分けて2種類の建造物の区分がある。

1)伝統的建造物(特定物件)

 ・基本的に許可なく修理、改修ができない。

 ・解体は、さらにハードルが高く、許可は下りない。

 ・建物に制限がかかっているので、持ち主が変わろうが拘束力は変わらない。

2)伝統的建造物以外の建造物(建築物、工作物、建築設備等、駐車場、植栽、土石類採取等)

 ・特定物件に比べ解体はできるが、その後の空地化は認められていない。

 ・新築については、修景基準に即したものでなければならない。

・修理・修景については、各々補助金があり、

 1)最大800万円(工事の8/10上限)

 2)最大400万円(工事費の6/10上限)

 ただ、近年の物価高や気候変動の影響が大きく、この補助金の見直しも必要になると考えている。

 また、補助金の優先度もあり、特定物件の最重要修理(瓦破損等)が最優先される。

 (現状、2年先まで補助金の受付は、埋まっている。)

 

■伝建地区内 建築基準法の制限緩和について

 伝建地区内の建築基準法の制限緩和について、軒等の道路への突き出しを緩和している、地区によって、最大50㎝までは道路への突き出しを緩和している。

 ただ、基本的に周囲の景観と馴染むようにしなければならないので、修理・修景する際は必ず行政と相談すること。

 

■伝建地区内の諸問題

 ・空家の問題

 ・維持費の問題

 補助制度があるとはいえ、修理・修景には家主の経済的負担を伴うため、修理せず放置したままになるケースもある。また、家主の高齢化、後継ぎ問題等により空家になる家も多い。

 最近では、空家を店舗として貸し、カフェや雑貨屋と活用するケースも増えてきているが、抜本的解決策はでておらず、今後の大きな課題となる。

伝建地区散策(美濃和紙あかりアート館および旧今井家住宅(美濃市指定文化財))

 地元の案内ぼrボランティアのご協力を得て、3班に分かれて伝建地区内の散策を行いました。

 

午前中の講義内容でもあった美濃の歴史を、実際の町並みを見て散策。

 

伝建地区内散策の様子            うだつの中でも珍しい2連うだつ

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美濃の町並みを地図で説明          うだつのあがる町並み

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美濃和紙あかりアート館

 建物は、昭和16年頃に美濃町産業会館として建てられました。切妻造りの木造総2階建てのスレート葺で、美濃市の現存する中では最大の近代木造建築物となる。

 水平線を強調した外観意匠に特徴があるとされ、昭和初期の姿を今に残す貴重な建造物として、国の登録有形文化財に指定されている。

 毎年秋に美濃市で開催される「美濃和紙あかりアート展」の入賞作品を展示している。伝統の美濃和紙の腐朽にも力を入れ、市全体として活性化を図っている。

 

建物外観                  建物内観(展示内容)

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旧今井家住宅((美濃市指定文化財)(現地視察)

 旧今井家住宅は、美濃市で最も古いうだつのある庄屋兼和紙問屋であった町家となる。江戸時代中期に建てられ、明治初期に増築されたと言われており、市内最大級の間取りとなっている。増築時には天井からの高さが約3mある明かりとりもつくられました。

 庭には「日本の音風景100選」にも選ばれた水琴窟がある。

 また、奥には美濃市の古い歴史、文化、造形物に関する資料を展示した美濃資料館やうだつ蔵、にわか蔵がある。

 国の重要伝統的建造物群保存地区に選定される前に、美濃市で独自保存修理したため、国の重文の指定にはなれなかった。しかし、近年そうした経緯も含め、再度重文指定になるための議論がなされている。

 

今井家住宅内帳場にて            水琴窟を囲んで

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 今回の講座で、伝建地区内での課題等を考える機会を得て、保存方法、地域融和の難しさを知ることができました。今後の講座でも、今回の内容を活かして学んでいきたいです。

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令和5年度 HM 第2日目

テーマ:文化財体系・文化財保護法・岐阜県の文化財保護条例について(講義)

    岐阜県文化財保存活用大綱・文化財保存活用地域計画・文化財レスキューについて(講義)

    岐阜県の歴史的建造物の調査・保存、活用について(講義・演習)

日時 :令和5年5月27日(土)10:00~16:30

場所 :午前講義      大野町総合町民センター 第3会議室

    午後講義・実地研修 国指定重要文化財 牧村家住宅

              国登録有形文化財 旧岡田家住宅

              国登録文化財指定 旧岡田酒店 店舗兼主屋

参加者:24名

 

文化財保護法・ぶん文化財体系について(講義)

 県文化伝承課 伝統文化係長 鷲見博史氏に講義して頂きました。

 

鷲見博史氏の講義風景

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 「文化財とは何か」の基本的な説明から始まり、戦後GHQの支配の下、混乱による文化財の海外流出、昭和24年の法隆寺金剛堂壁画の焼失を機に制定された文化財保護法(昭和25年制定)について体系的に説明して頂きました。

 まず文化財保護法において注目すべきは、法第1条に文化財を「保存」することと同時に「活用」を図っていくことが目的であると明記されていることでした。

 文化財の体系は大きく分けて6つに分けられていました。その中でもヘリテージマネージャーが携わることの多い分野は有形文化財の建築物と伝統的建造物群になると思います。

 また、民俗文化財の地歌舞伎は全国的にも岐阜県は数が多いらしく、県としても力を入れていくそうです。

 文化財を保存・活用していくには有形、無形を問わずその地で育まれた民族風習、文化的景観、生物等をよく理解することが必要になりそうです。

 

鷲見博史氏の講義風景            質問の様子

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岐阜県のぶんかざい文化財行政について(講義)

 引続き鷲見博史氏氏に講義して頂きました。

 岐阜県の文化財保護条例は昭和29年に制定されました。文化財を指定するには岐阜県の場合、市町村で指定されたものが県の対象になります。他の県では県が直接指定する場合もあるそうです。そのような選定条件下で東京都と京都府を除いた都道府県の中でして数は全国1位でした。岐阜県には多くの文化財が存在することが分かりました。

 現在は過疎化、少子高齢化等の社会状況の変化で、全国的な問題である担い手不足、災害の多発、専門人材の不足等により、貴重な文化財の滅失、散逸がこれからの文化財の保存・活用の課題となっています。

 令和3年には、岐阜県文化財保存活用大綱が制定されました。

 この大綱は文化財を知り、守り、育て、地域の資源として「清流の国ぎふ」づくりに活かすことを基本方針としています。

 大綱に記載されている文化財の保存・活用を図るために講ずる措置として、文化財の正確な把握、県民への情報発信というものがあります。その一例として、以下の調査報告書が岐阜県のホームページで閲覧できます。

 2017~2019 「岐阜県の祭り・行事総合調査」

 2018~2022 「岐阜県古代・中世寺院跡総合調査」

 

 また、担い手・専門人材の育成、県民参加の促進、学校教育等との連携ということで、県が力を入れている地歌舞伎勢揃い公演やヘリテージマネージャー等人材育成事業があります。

 その他市町村への支援の方針、防災・災害等への対応、文化財の保存・活用の推進体制の構築等、岐阜県の文化行政が積極的に行われていることを講義して頂きました。

 

地域の歴史的建物調査・保存、活用について(講義)

 岐阜県博物館 元館長 髙橋宏之氏に講義して頂きました。

 

髙橋宏之氏の講義風景

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国指定重要文化財 牧村家住宅(講義・現地視察)

 現在の牧村家住宅は18世紀初めにた建てられたもので、赤穂浪士の討入りの前年(元禄14年 1701)に建てられたと伝えられています。系図によれば現主屋を建てたのは、11代の治郎右衛門(享保11年 1726 没)ということです。牧村家住宅は解体修理工事(昭和56年1月~57年3月)によって、創建当時の姿に復元されました。典型的な三間取り広間型の平面と鳥居建の構造を見ることができる貴重な民家で、岐阜県における美濃地方民家の基本形を知ることができる重要な遺構です。また、同じ地域ということで揖斐川上流域の民家である旧徳山村の旧広瀬家住宅、旧宮川家住宅、旧藤橋村の旧宮川家住宅の写真と間取りの解説をして頂きました。徳山村、藤橋村は大野町よりもさらに山奥にあり雪深い地域であるためこれらの住宅と牧村家住宅では床上部と床下部の割合に違いがありました。また、南側の軒の出が少し違う箇所がありましたが、これも細かい調査によって判明したそうです。

(参考・引用文献:『重要文化財 牧村家住宅修理工事報告書』昭和57年・修理委員会)

 

「国指定重要文化財 牧村家住宅」での現地視察の様子

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登録文化財 旧北岡田家住宅(講義・現地視察)

 北岡田家は江戸時代、地主で大垣藩領相羽村の名手や年貢を木で納める段木御用の土場船方取締役を務め、苗字帯刀を許された家柄であり、明治時代には段木会社を設立していました。

 北岡田家に伝わる『諸事日記帳 大正四年二月廿日ヨリ 大正五年十月十八日迄』によると主屋は大正五年(1916)五月に上棟されました。どっしりとした主屋や蔵、納屋、広い庭園、高い塀、これらが一体となった豪壮な構えの住宅で、この地方を代表する貴重な近代和風建築の遺構です。

 かまどがある勝手ニワという土間には大黒柱(45.0㎝)や土間の中間に建つ太い柱(41.5㎝×38.5㎝)、縦横に交差する太くて曲がった黒い梁などによる力強い架構がみられました。庭を眺める書院や入側の雪見障子等はデザイン性にも富んでいて現代にも通ずる感じでした。

 屋根瓦は大垣市青墓地区産の瓦だそうです。この地区は垂井町と池田町と隣接する地区で大垣市の北西に位置し、大野町に比較的近い地区です。また、昔から瓦の窯元、鬼師、瓦葺き師など瓦に係わる人が多い地区でした。

 

「登録文化財 旧岡田家住宅」現地視察の様子

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古民家 旧岡田家酒店 店舗兼主屋(現地視察)

 国登録文化財指定、官報告示号外第233号(令和3年10月14日付)

 大野町教育委員会の調査資料によると、建築年代は大正6年(1917)。

 西側を流れる三水川の舟運事業が盛んであったと思われ、主屋の東側の塀の一部に舟板塀が残っている。

 今回の現地視察では立ち入り禁止のため、外観を見ることしかできませんでした。

 

 今のところどの文化財も「保存」という点ではある程度行われていますが、「活用」という点では課題があるようです。これからは冒頭の鷲見氏の話の中にありました文化財の活用に重きを置いた活動が大切になってくることを痛感いたしました。

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令和5年度 HM 第1日目

テーマ:登録文化財と歴史的建造物保存事業の概要(講義)

   :ヘリテージマネージャーの役割と現状(講義)

日時 :令和5年5月13日(土)13:20~17:50

場所 :OKBふれあい会館 14階 展望レセプションルーム

参加者:22名

 

ガイダンス

 岐阜県建築士会の石黒会長から挨拶があり、その後、ヘリテージマネージャー(以下HM)を育成するための方講習会の進め方、配布資料、手続きについて岐阜県建築士会による事務局から解説がありました。

 

講義の様子                 司会の福田勝好氏

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登録文化財と歴史的建造物保存事業の概要(講義)

 工学院大学教授・理事長、全国ヘリテージマネージャーネットワーク協議会運営委員長の後藤治先生による講義でした。

 

 まず、HM設立の背景として、阪神淡路大震災の歴史的建造物被害と、その後の文化財保護法改正による「文化財登録制度」の導入、それに対応できる専門技術者の育成が必要となったことを学びました。歴史的な建築物の価値を見極め、どのように修復していくのか指針を示すことのできる人材が必要であることが、震災を機に課題として浮き彫りになったことを知り、日本の建築にとって阪神淡路大震災が如何に大きな出来事であったか改めて認識しました。

 HMになると登録文化財の登録推薦と、災害時の文化財ドクターとして活動できること、法律用語の整理、基準法適用除外の方法と注意点など、多くの意義と役割が説明されました。とくに「文化財は活用しながら保存することが基本」でまちづくりとつながっており、そのために登録文化財を増やしていくことが肝要で、登録の推薦ができるHMの存在は重要であると感じることができました。

 「登録文化財制度」を設立した本人である後藤先生の解説は、法や制度の設立に込められた精神を理解することのできる貴重で有意義な機会でした。HMとして活動することが、社会にとっても自分にとっても意義深いものであることを理解することができました。

 

後藤治先生の講義風景            「まちづくりと家づくり」

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ヘリテージマネージャーの役割と現状(講義)

 ひょうごヘリテージ機構H2O世話人(特命係)沢田伸先生に講習して頂きました。

 2002年1月に兵庫県で最初のHMネットワークを発足し、その始動、草創期から現在に至るまでの活動の変遷を紹介頂きました。

 ヘリテージマネージャーという言葉がはじめて世に出た頃から、HMの意義や役割を手探りで模索し、数々の困難な状況を柔軟な対応と熱意で辛抱強く活動してきたことがわかるお話でした。

 「この指とまれ方式」「地域の資産台帳」「ホームドクター」の3つを要点とし、アメーバのようなネットワークで継続していく姿勢と「自由を温存しつつ如何に責任ある活動ができるか」という言葉が印象的です。

 勉強会からスタートしたHMが、地域社会に必要とされる存在になっていく過程が綴られ、沢田先生が継続してきたことが全国に幅広く展開している結果が今日の講義なのだと理解できました。本日の受講者もHMになったあと、自分たちがどのように活動を展開していくべきか、各々がイメージし始めたと思います。

 

沢田伸先生の講義風景            「ヘリテージマネージャーとは?」

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講座の班割及び班役割決め

 講座の後に、地域ごとに班に分かれて班の役割を決めたり、今後の話し合いを行いました。

 今後はこの班ごとにこの講座を運営していきます。

以上

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