岐阜県建築士会 まちづくり委員会

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ぎふHM 2023年度

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令和5年度 HM 第2日目

テーマ:文化財体系・文化財保護法・岐阜県の文化財保護条例について(講義)

    岐阜県文化財保存活用大綱・文化財保存活用地域計画・文化財レスキューについて(講義)

    岐阜県の歴史的建造物の調査・保存、活用について(講義・演習)

日時 :令和5年5月27日(土)10:00~16:30

場所 :午前講義      大野町総合町民センター 第3会議室

    午後講義・実地研修 国指定重要文化財 牧村家住宅

              国登録有形文化財 旧岡田家住宅

              国登録文化財指定 旧岡田酒店 店舗兼主屋

参加者:24名

 

文化財保護法・ぶん文化財体系について(講義)

 県文化伝承課 伝統文化係長 鷲見博史氏に講義して頂きました。

 

鷲見博史氏の講義風景

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 「文化財とは何か」の基本的な説明から始まり、戦後GHQの支配の下、混乱による文化財の海外流出、昭和24年の法隆寺金剛堂壁画の焼失を機に制定された文化財保護法(昭和25年制定)について体系的に説明して頂きました。

 まず文化財保護法において注目すべきは、法第1条に文化財を「保存」することと同時に「活用」を図っていくことが目的であると明記されていることでした。

 文化財の体系は大きく分けて6つに分けられていました。その中でもヘリテージマネージャーが携わることの多い分野は有形文化財の建築物と伝統的建造物群になると思います。

 また、民俗文化財の地歌舞伎は全国的にも岐阜県は数が多いらしく、県としても力を入れていくそうです。

 文化財を保存・活用していくには有形、無形を問わずその地で育まれた民族風習、文化的景観、生物等をよく理解することが必要になりそうです。

 

鷲見博史氏の講義風景            質問の様子

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岐阜県のぶんかざい文化財行政について(講義)

 引続き鷲見博史氏氏に講義して頂きました。

 岐阜県の文化財保護条例は昭和29年に制定されました。文化財を指定するには岐阜県の場合、市町村で指定されたものが県の対象になります。他の県では県が直接指定する場合もあるそうです。そのような選定条件下で東京都と京都府を除いた都道府県の中でして数は全国1位でした。岐阜県には多くの文化財が存在することが分かりました。

 現在は過疎化、少子高齢化等の社会状況の変化で、全国的な問題である担い手不足、災害の多発、専門人材の不足等により、貴重な文化財の滅失、散逸がこれからの文化財の保存・活用の課題となっています。

 令和3年には、岐阜県文化財保存活用大綱が制定されました。

 この大綱は文化財を知り、守り、育て、地域の資源として「清流の国ぎふ」づくりに活かすことを基本方針としています。

 大綱に記載されている文化財の保存・活用を図るために講ずる措置として、文化財の正確な把握、県民への情報発信というものがあります。その一例として、以下の調査報告書が岐阜県のホームページで閲覧できます。

 2017~2019 「岐阜県の祭り・行事総合調査」

 2018~2022 「岐阜県古代・中世寺院跡総合調査」

 

 また、担い手・専門人材の育成、県民参加の促進、学校教育等との連携ということで、県が力を入れている地歌舞伎勢揃い公演やヘリテージマネージャー等人材育成事業があります。

 その他市町村への支援の方針、防災・災害等への対応、文化財の保存・活用の推進体制の構築等、岐阜県の文化行政が積極的に行われていることを講義して頂きました。

 

地域の歴史的建物調査・保存、活用について(講義)

 岐阜県博物館 元館長 髙橋宏之氏に講義して頂きました。

 

髙橋宏之氏の講義風景

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国指定重要文化財 牧村家住宅(講義・現地視察)

 現在の牧村家住宅は18世紀初めにた建てられたもので、赤穂浪士の討入りの前年(元禄14年 1701)に建てられたと伝えられています。系図によれば現主屋を建てたのは、11代の治郎右衛門(享保11年 1726 没)ということです。牧村家住宅は解体修理工事(昭和56年1月~57年3月)によって、創建当時の姿に復元されました。典型的な三間取り広間型の平面と鳥居建の構造を見ることができる貴重な民家で、岐阜県における美濃地方民家の基本形を知ることができる重要な遺構です。また、同じ地域ということで揖斐川上流域の民家である旧徳山村の旧広瀬家住宅、旧宮川家住宅、旧藤橋村の旧宮川家住宅の写真と間取りの解説をして頂きました。徳山村、藤橋村は大野町よりもさらに山奥にあり雪深い地域であるためこれらの住宅と牧村家住宅では床上部と床下部の割合に違いがありました。また、南側の軒の出が少し違う箇所がありましたが、これも細かい調査によって判明したそうです。

(参考・引用文献:『重要文化財 牧村家住宅修理工事報告書』昭和57年・修理委員会)

 

「国指定重要文化財 牧村家住宅」での現地視察の様子

牧村家視察1.JPG 牧村家視察2.JPG

 

登録文化財 旧北岡田家住宅(講義・現地視察)

 北岡田家は江戸時代、地主で大垣藩領相羽村の名手や年貢を木で納める段木御用の土場船方取締役を務め、苗字帯刀を許された家柄であり、明治時代には段木会社を設立していました。

 北岡田家に伝わる『諸事日記帳 大正四年二月廿日ヨリ 大正五年十月十八日迄』によると主屋は大正五年(1916)五月に上棟されました。どっしりとした主屋や蔵、納屋、広い庭園、高い塀、これらが一体となった豪壮な構えの住宅で、この地方を代表する貴重な近代和風建築の遺構です。

 かまどがある勝手ニワという土間には大黒柱(45.0㎝)や土間の中間に建つ太い柱(41.5㎝×38.5㎝)、縦横に交差する太くて曲がった黒い梁などによる力強い架構がみられました。庭を眺める書院や入側の雪見障子等はデザイン性にも富んでいて現代にも通ずる感じでした。

 屋根瓦は大垣市青墓地区産の瓦だそうです。この地区は垂井町と池田町と隣接する地区で大垣市の北西に位置し、大野町に比較的近い地区です。また、昔から瓦の窯元、鬼師、瓦葺き師など瓦に係わる人が多い地区でした。

 

「登録文化財 旧岡田家住宅」現地視察の様子

北岡田家1.JPG 北岡田家2.JPG

 

古民家 旧岡田家酒店 店舗兼主屋(現地視察)

 国登録文化財指定、官報告示号外第233号(令和3年10月14日付)

 大野町教育委員会の調査資料によると、建築年代は大正6年(1917)。

 西側を流れる三水川の舟運事業が盛んであったと思われ、主屋の東側の塀の一部に舟板塀が残っている。

 今回の現地視察では立ち入り禁止のため、外観を見ることしかできませんでした。

 

 今のところどの文化財も「保存」という点ではある程度行われていますが、「活用」という点では課題があるようです。これからは冒頭の鷲見氏の話の中にありました文化財の活用に重きを置いた活動が大切になってくることを痛感いたしました。