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ぎふHM 2022年度

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HM第17日目

テーマ:Ⅰ.「私が見つけた登録文化財」(受講生による発表及び講評)

    Ⅱ.文化財の地域の景観・住民生活に寄り添った今後の活用方法を学ぶ

    Ⅲ.修了式

日時 :令和5年3月4日(土) 13:00~17:10

場所 :岐阜県勤労福祉センター ワークプラザ岐阜 3階 302会議室

参加者:31名

 

Ⅰ.「私が見つけた登録文化財」

 実際の事例を対象に受講生(5班)が作成した登録文化財の申請・修理及び活用計画を班ごとに発表し、あいちヘリテージ協議会(3名)、静岡ヘリテージセンターSHEC(1名)から講評を頂いた。

 

●1班(8名)発表:伊縫誠一郎氏

・名称:金龍山 暁堂寺/・員数 :1棟(建造物:本堂)/・所在地:岐阜県関市肥田瀬1280/・構造:木造平屋建て寄棟造桟瓦葺/・規模:建築面積32.60㎡/・建築年:江戸時代中期 宝永2年(1705年)/・所有者:金龍山暁堂寺

 

伊縫誠一郎氏 発表

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1.全体概要

 ・関市の富岡地区で一番古く創建された金龍山の山あいにある曹洞宗の寺

 ・檀家はなく地元住民と住職が代々寺を守ってきた

 ・本尊「聖観世音菩薩像」は関市指定重要文化財で「両面宿儺」の伝説を持つ

2.建造物の概要(本堂)

 ・江戸時代中期の宝永2年(1705)に再建されたと縁起にあり、内陣の木鼻意匠もその時代の特

  徴を示す

 ・本尊を納めた厨子のある内陣とそれを拝する外陣が一体となった3間×3間の建物

 ・令和4年台風14号の影響で裏の木が倒れ本堂屋根に大きな被害を受けた

 ・調査の結果、腐朽が深刻な箇所は今後計画的に修繕する必要がある

3.評価

 ・金龍山の谷あいにひっそり佇む山寺が周囲の自然に溶け込んだ貴重な環境

 ・檀家のいない寺を地域住民のコミュニティが支援し拠り所としてきた歴史や文化がある

 ・地域の古き良き伝統・文化・風習を受け継いで行こうという試みが必要とされている

 ・近年アニメ化された「呪術廻戦」にも登場する本尊「両面宿儺」も含めて地域外にも広く伝

  える

 

◎1班 講評:林秀和氏

 ・歴史を調べるとそちらを重視しがちだが、最後のこの建物の魅力を伝えて今後残すべき理由

  が重要

 ・古さや作り方など曹洞宗の永平寺等他の建物も多く見て比べて魅力を考え価値を客観的に評

  価すること

 ・文章だけを読んで魅力や価値を文化庁がイメージできないと登録に至らない

 ・つっかえ棒はとる、傷んでいる箇所は直すのみ

 ・写真は天候に配慮し掃除をしてきれいに撮ること

 

林秀和氏 講評

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●2班(8名)発表:中村修氏

・名称:旧 岐阜県庁舎/・員数:1棟/・所在地:岐阜県岐阜市司町1番地/・構造:鉄筋コンクリート造/・規模:地上3階建て地下1階 建築面積1,474㎡/・築年数:大正13年(1924年) 昭和33、53年増築 平成25年減築/・所有者:岐阜県岐阜市

 

中村修氏 発表

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1.全体概要

 ・岐阜でまず登録文化財を挙げるべき物件かつ班員に「司町旧県庁舎保存活用協議会」メンバ

  ーがいる

 ・「物件内部が立入禁止」「膨大な参考資料の内容が不統一」が問題→「建築文化財調査報告

  書」を参考に作成

 ・明治7年初代岐阜県庁舎竣工時からの行政中心「司の町」の歴史的記憶を今に伝える建物で

  ある

2.建造物の概要

 ・大正13年(1924)に建替えられた2台目庁舎で、平成25年(2013)南側部分のみ残して解体

  された

 ・設計顧問:矢橋賢吉・佐野利器、設計及び監督:清水正喜、施工:錢高組

3.評価

 ・登録基準(一):現存する道府県庁舎24棟の中で8番目に古く、RC造官庁建築物として初期の

         もの

 ・登録基準(二):外観意匠の三層構成、内部の玄関ホールから階段ホールにかけての造形的迫

         力

 ・登録基準(三):内壁の赤坂町金生山産の大理石及び含まれているシカマイアの化石の希少価

         値

         日本を代表する設計者達が手掛けた一部耐震壁付ラーメン構造の構造体

 ・歴史的文化価値を残しつつ保存修理にかかる費用を生み出す活用計画と修理計画・方針を提

  案

 

◎2班 講評:下會所豊氏

 ・前半の2/3「旧岐阜県庁舎建築文化財調査報告書」(日本建築学会東海支部)に基づく作成過程

  は不要

 ・もっと簡潔に、登録基準(一~三)の説明をすること(「登録文化財(建造物)意見具申資料」に

  は記載あり)

 ・ページを打ち、他県の人にもわかるように公共交通での経路も記載すること

 

下會所豊氏 講評

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●3班(5名) 発表:小島智之氏

・名称:養老鉄道 養老駅/・員数:1棟/・所在地:岐阜県養老郡養老町鷲巣白石道1200/・構造:木造平屋建て 入母屋造り瓦葺/・規模:建築面積:395㎡/・建築年:大正2年(1913年) 大正8年改築 令和4年改修/・所有者:養老線管理機構

 

小島智之氏 発表

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1.全体概要

 ・養老鉄道養老線の駅舎で、大正2年(1913)営業開始当時は大屋根切妻屋根であった

 ・養老駅周辺は外道沿いに遺跡等が集まり、養老公園の最寄り駅にある観光スポットである

2.建造物の概要

 ・大正8年(1919)現駅舎に改築(古材が使用されている)、この時点で養老鉄道の本社が置かれ

  た

 ・擬洋風建築でドーマー(飾窓)、しっくい+板張、入母屋造り、鬼瓦には社紋のYの字が刻ま

  れている

3.評価

 ・改築されてから100年が経過しており、改修箇所は認められるが建築当初の趣を残している

 ・周辺は古くからの遺構が残る集落で、建築当時の期間駅としての役割を外観に表している

 ・意匠上の特徴(造形の規範)として玄関柱の方杖や造付けベンチの足元にアールのデザインが

  ある

 

◎3班 講評:山本栄一郎氏

 ・もう少し突っ込んで、登録基準(一~三)のどれにどの部分が該当するか説明すること

 ・アールのデザインの由緒などを掘り下げていいところを主張すると納得性が高まる

 ・岐阜県には下呂温泉等たくさん見たいもの文化的価値のあるものがある

 

山本栄一郎氏 講評

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●4班(8名) 発表:桂川麻里氏

・名称:花の木窯・小山冨士夫邸/・員数:3棟(花の木窯/花の木窯 陶房/小山冨士夫邸)/・所在地:岐阜県土岐市泉町久尻/・構造 規模:花の木窯 木造平屋建て延べ面積102.20㎡・花の木窯 陶房 木造2階建て一部CB造 延べ面積86.40㎡・小山冨士夫邸 木造2階建て一部CB造り 延べ面積213.94㎡/・建築年:昭和48年(1973年)/・所有者:土岐市

 

桂川麻里氏 発表

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1.全体概要

 ・土岐市の東海環状自動車道から入った山中、美濃陶芸村の近くに位置する

 ・世界的な陶磁器研究者であり陶芸家の小山冨士夫の窯と自邸である

 ・昭和48年(1973)に「花の木窯」を開き自邸も構え、昭和50年小山冨士夫自邸にて生涯を終

  える

 ・平成19年(2007)土岐市に寄贈され、平成21年(2009)「花の木窯」での焼締め以降使用さ

  れていない

2.建築物の概要

 ・花の木窯・小山冨士夫邸設計者:元文化庁文化財保護部 主任文化財調査官 半澤重信

 ・花の木窯の設計者:築陶協力者 中里隆

 ・自然豊かなロケーションでの焼物教室、自然遊び、宿泊所としての活用及び花の木窯から美

  濃陶芸村への山道や「高根山古窯跡公園志野の里」を一体活用して陶器の歴史を学べる

3.評価

 ・どの建物にも柱や梁に、小山と半澤が飛騨から持ち込んだ古材を随所で使用している

 ・小山冨士夫が亡くなって34年経ってもその死を偲んで若手陶芸家たちが集まってくるような

  人物である

 ・自然の残った里山、登り窯の薪の材料となる雑木林、澄んだ小川、絶滅危惧種Ⅱ種に分類さ

  れる花の木が自生するという自然環境の良い中にあり、地域発展の聖地として陶芸家達にと

  っても歴史的にも残していくべき文化財と考える

 

◎4班 講評:塩見寛氏

 ・すごい発見だと思う。小山さんを知らないが半澤さん中里さんといっしょに作ったことにも

  価値がある

 ・まず飛騨からの古材を使用しているとか、ここにしかない建造物の価値を説明しておくべき

  である

 ・50年以上が条件だが、ちょうど50年経ったところで十分に価値がある

 

塩見寛氏 講評

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●5班(4名) 発表:大塚則幸氏

・名称:旅館 寿美吉/・員数:1棟/・所在地:岐阜県高山市本町4丁目21/・構造:木造2階建て/規模:延べ面積664.22㎡/・建築年:明治8年(1875年)の大火で土蔵2棟残り元の本体消失/明治期増築/昭和30年代改築/・所有者:寿美吉旅館

 

大塚則幸氏 発表

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1.全体概要

 ・高山市街地の北の端、宮川沿いの細い路地に面して建つ(そのため全景の写真が撮れない)

 ・約200坪の旅館を1月から調査するも、休日のチェックアウトからチェックインの間しか入

  れず細かい聞き取りもできず未完成である(平面図の作成に専念)

2.建造物の概要

 ・前身は質屋で、元の本体は高山の大火災で消失し大きな土蔵2棟だけが残り、明治期に土蔵

  の廻りを増築、昭和30年代に駅前の大丸旅館から東側客間を移築している

 ・北西角の土蔵は1階が厨房で2階が納戸、南側土蔵は当主夫妻が中に住んでいる

 ・玄関奥のホール上部吹抜の木組が見所、明治期の建設の特徴として軒高が高く2階の窓から

  光が入る

 

◎5班 講評:林秀和氏

 ・「いい物件を選ぶほど苦労する」ものだがそのいい例である

 ・「蔵が人を守った」という建物だと思う

 ・目を奪われるところが多いが、話されたことを書くことでいい

 

林秀和氏 講評

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Ⅱ.「文化財の地域の景観・住民生活に寄り添った今後の活用方法を学ぶ」

 講師:静岡ヘリテージセンターSHEC 塩見寛氏

 ヘリテージマネージャーが考えなければならない①~⑨のテーマについて静岡の事例を中心に紹介※②~⑧冒頭の選択問題は、阪神淡路大震災後に神戸市が防災用に作成したクロスロードゲーム(様々な場面を想定し二者択一の選択をすることで状況判断や対応を訓練する手法)を応用した静岡ヘリテージセンター(SHEC)バージョン

 

塩見寛氏 講義

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①日本人は「歴史的」なものを、どのようにとらえてきたか

 ・江戸時代には広重「道灌山虫聞之図」にあるように、日常身近なところで環境全体を味わっ

  ていた

 ・明治維新・太平洋戦争で「歴史的」なものが否定・破壊されたが、21世紀になって(2000年

  頃から)ようやく「歴史」が計画やまちづくりにおいて重要であることが認識されてきた

 ・2001.12.4国立マンション訴訟の判決で「良好な景観の恩恵を享受する利益は法律上の保護

  に値する」

②HMは、設計の仕事とどう向き合っていけばいいか

 ・焼津・花沢の里(静岡県唯一の重伝地区)の町医者としてHMが担う

 ・住民・所有者とふだんから顔見知りになりほどよい関係を築いていくことでHM活動を仕事

  につなげる

③建築基準法第3条《適用除外》を、どのように活かしていくか

 ・「歴史的建造物」は、地方自治体が定める建築基準法第3条第1項3号「その他の条例」に

  より適用除外を受けることができ、専門の委員会等で認められれば建築審査会を経ずに同意

  があったものとみなされる

 ・国交省が「その他条例」を作るガイドラインを出し、《適用除外》を認める緩和の方向に向

  かっている

 ・全国で条例を施行した市が出てきているが岐阜県は未。所管の行政と調整が必要である

④「本物」か否かと、高価か安価かをどう折り合えばいいか

 ・本物が見る眼を育てる→本物の風景が人を磨く→よい景観が人をつくる→風景が人の心をつ

  くる

 ・「風景」は人の眼に映るながめそのもの、「景観」とは自然と人間界が入り混じっている現

  実のさま

⑤文化財として指定・登録することを、所有者にどう話しをするか

 ・登録有形文化財:築50年以上・所有者の承諾(税制優遇措置等の利点及び難点を説明)・所見

  作成

 ・登録基準(1.国土の歴史的景観に寄与しているもの 2.造形の規範となっているもの 3.再現

  することが容易でないもの)の中の該当する価値について具体的に説明し承諾を得る

⑥防災か文化財かの岐路に立った時、どう対処するか

 ・HMはまちづくりの担い手であり、防災も文化財も両方を考えるべき立場

 ・静岡ヘリテージセンターSHECは平常時の活動と非常時における対応を検討している

 ・人口減少及び空き家増加は、歴史的建造物の空き家問題に波及している

⑦「史実に忠実」に復元する場合、バリアフリー化をどう考えるか

 ・名古屋城の木造復元にエレベーター設置をどうするか問題になり、両立する新技術が公募さ

  れた

 ・大須城は1階に展示を集約し、車いすの人が1階に入れるように手助けをする工夫をした

 ・文化庁が「文化財の活用のためのバリアフリー化事例集」をHPで公開している

⑧都市計画事業事業により歴史的建造物が壊される、さあどうするか

 ・静岡県菊川市赤レンガ倉庫が区画整理により解体撤去される危機を、換地計画変更で回避し

  て保存

 ・二者択一を迫られた場合も歴史的・文化的価値のあるものを残す方法がないか工夫・模索す

  べきである

⑨本来の機能がなくなったものに、価値はないのか

 ・「火の見櫓」①半鐘を叩いて火事を報せる防災施設 ②江戸に始まり全国に広がる ③生活

  の基礎的な単位の表象 ④しかし本来の機能を失っている

 ・本来の機能がなくなったものに価値はないのか→A記憶の風景としての価値 B地域の物語

  としての価値 Cまちづくりの素材としての価値はある

 ・広島平和記念公園-原爆ドームは世界遺産、宮城県の東北大震災被災建造物も保存される方

  向にある

 

Ⅲ.修了式

・修了証の交付

 

文化財建造物保存修理スキルアップ受講生へ  ヘリテージマネージャー育成講座受講生へ

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・会長講習会終了の挨拶

 本日、無事今年度の受講生全員に修了証を交付することができました。

 1年間欠席も少なく高い出席率で参加していただき本当にご苦労さまでした。

 また最初の立ち上げから骨を折っていただいた専務はじめ関係者のみなさんに感謝申し上げます。

 これで修了者が総勢33名になりました。令和5年度も募集人員20名の予定で開講します。

 名刺に終了資格を書く場合は「ぎふヘリテージマネージャー」で統一してください。

 今後はぜひ仕事として歴史的建造物の保全活用や文化財登録に関わっていってください。

 

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