岐阜県建築士会 まちづくり委員会

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ぎふHM 2023年度

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令和5年度 HM 第15日目

テーマ:真龍寺の耐震改修の事例について(講義)

    真龍寺現場視察

日時 :令和6年1月20日(土)10:00~15:30

場所 :午前 講義 (一社)岐阜県勤労福祉センター ワークプラザ岐阜(中会議室)

    午後 視察 真龍寺 岐阜市長良2509-1

参加者:21名

 

真龍寺の耐震改修の事例について(講義)

 

清水隆宏氏の講義風景

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 愛知工業大学准教授 清水隆宏 氏に建築物の概要を講義して頂きました。

 真龍寺は岐阜市の百々ヶ峰の南側麓にある寺院で、文献によると「戦国時代すでに、浄土真宗の寺として存在していた」とされています。

 本堂、玄関及び茶室、鐘楼、山門の4件は2020年に始まった本堂の耐震改修工事を経て、2022年10月31日に国の登録有形文化財(建築物)に登録されました。

 本堂、玄関及び茶室 (2)造形の規範となっているもの。鐘楼、山門 (1)国土の歴史的景観に寄与しているもの。として基準を満たし登録されています。

 真龍寺が国の登録文化財に申請したのは、本堂にある欄間の学術調査を2005年に岐阜工業高等専門学校が行ったことがきっかけだそうです。学術調査後の数年間に劣化がさらに進み、何とか残したいという住職の強い思いで改めて岐阜高専に相談したところ、本堂、玄関及び茶室、鐘楼、山門の建築様式や技術の貴重さが判明しました。また、名古屋大学大学院や森林文化アカデミーなどによる共同調査で耐震改修可能と判断され改修工事に至ったそうです。

 清水氏は文献・史料調査の心構えとして、直接関係のある史料だけでなく、周辺の住民が持っている写真を見せてもらったり、一見関係のないと思われるような資料を読み解くことで、誰も知らないことが分かるかも知れないという気持ちを大切にしているそうです。

 真龍寺には本堂の平面、境内の配置図が描かれた図面と、建設に必要ない部材の寸法や本数、金額などが記された見積書が二曲の屏風に貼り付けられた状態で保存されている史料があります。それによると本堂は明治14年に棟梁笠原治助により建てられたことが分かり、濃尾地震以前の建物で希少価値の高い建築物だと分かります。

 茶室は言い伝えにより、哲学者・仏教学者の久松真一による設計と推されており、茶道に造詣の深い久松は当地の出身で真龍寺の檀家であったという史料が現存するそうです。

 鐘楼は修理の際に屋根内部から発見された棟札から、本堂建築から約17年後に建築されたことがわかり、棟梁は笠原治七であったことが把握されています。

 山門は修理の際に撮影された小屋組みの写真に墨書きが写っており、それによると昭和23年に檀家から木材を寄贈されて棟梁村瀬省吾により再建されたことが判明したそうです。

 真龍寺に保存されている史料ではないですが、真龍寺から北へ約5km離れたところに大龍寺があります。大龍寺の境内の入口横に真龍寺の鐘楼を手掛けた棟梁の笠原治七の弟子たちが業績を称えて、昭和3年に建てた「笠原治七翁碑」があるそうです。その石碑からは笠原治七が笠原治助の後継ぎとなったことが刻まれているそうです。また、真龍寺の山門を手掛けた村瀬省吾が笠原治七の門徒であることも確認できたそうです。

 真龍寺の建設には熱心な檀家により多くの史料が残されただけでなく、同門の大工達との繋がりがあったことが分かりました。

 

真龍寺の耐震改修の事例について(講義)

 起雲社寺建築設計 野村健太 氏に耐震性について講義して頂きました。

 

野村健太氏の講義風景

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 伝統的構法木造建築物の定義から説明して頂きました。伝統的構法とは西洋の影響を受ける前の日本古来の構法で、丸太や製材した木材を使用し、木組みを活かした継ぎ手・仕口によって組み上げる軸組構法です。石場建てなど柱脚が移動する可能性のあるものも含みます。

 約20年前に阪神淡路大震災をきっかけに『伝統構法を活かす木造耐震設計マニュアル』が発刊されましたが、石場建ての柱脚が評価対象外であったり、構造計算上の問題もあり、これまでの社寺建築では伝統構法ではなく在来工法も多く採用されて来たそうです。

 2019年に『伝統的構法のための木造耐震設計法』が発刊され、石場建ての柱脚が評価対象になり、確認申請も申請出来るようになりました。

 伝統的構法木造建築物の定義は4つの分類にわけて定義づけされています。

定義1:使用する木材、定義2:部材の接合部、定義3:構造要素(水平力に対する抵抗要素)、定義4:柱脚の仕様です。共通して定義されている大切なことは変形性能が担保され、生かすことができるのが伝統的構法木造建築物だということです。

 真龍寺の耐震改修の流れの説明をして頂きました。

 耐震改修の依頼を受け、現況調査ののち現状建物を図面化する。限界耐力計算もしくは許容応力度計算による耐震診断をする。揺れやすさを確認できるwebサイトなどを利用してこの地域の地盤の特性を計算に加味する。地盤が悪い場合は伝統的構法を採用しない場合もあるそうです。

 真龍寺の地盤は比較的良好だったようです。それに基づいて耐震計画の検討・設定を行っていく。予算などの条件はもちろん、登録有形文化財に申請するということで、外観を残すこと、また高さがある建物なので風圧を考慮することも重要でした。面格子壁、荒壁パネル、仕口ダンパー、土壁など様々な材料・工法を取り入れて計画する。構造計算は震度6で最小限のダメージに設定。実施設計後、施工する。施工後、常時微動測定により真龍寺の耐震性の向上を確認したそうです。

 午後からの現場視察をより理解できるように基礎・床下補強、小屋組み補強、水平剛性、耐震壁、増築・収納新設、外構・外周部の各部分の改修を資料で説明して頂きました。

 

真龍寺現場視察

 紫雲山真龍寺第17代住職の浅野郁尚氏からご挨拶を頂いた後、3班に分かれて清水氏と野村氏から説明をして頂きました。

 

第17代住職 浅野郁尚氏の挨拶風景

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 講義で説明を受けた各部位の改修部分と登録有形文化財である建物を視察することでより理解が深まりました。

基礎・床下補強・・・基礎新設、土台・足固め新設、仕口ダンパー

小屋組み補強・・・柱新設、梁新設

水平剛性・・・構造用合板新設、火打梁、虹梁新設

耐震壁・・・面格子+荒壁パネル両面貼り、荒壁パネル両面貼り、土壁

増築・収納新設・・・物入れ・水屋増築、収納3箇所新設、引き出し新設、小屋裏収納新設

 

基礎・床下補強               小屋組み補強

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面格子                   面格子+荒壁パネル両面貼り、漆喰仕上げ

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茶室及び玄関の特徴

 本堂と庫裡を繋ぐ渡り廊下と、その南側の唐破風玄関、北側の切妻造の茶室からなる建物。茶室は四畳半で西面に床構え、床脇に円窓、東に水屋を配す。茶室と廊下境壁の腰を無双窓とし、来客を知る。

 寺院の機能的な玄関と接客空間。築年数は伝承と経年感による。昭和中期に北面躙り口を掃き出し窓にする等の改修。

 

茶室

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鐘楼の特徴

 入母屋造桟瓦葺、二軒、三斗組、格天井を張る。乱石積み基壇に、内転びの礎盤付円柱を貫・虹梁・頭貫で固めた方一間吹放ちとする。本堂棟梁の弟子の作で、地元大工の仕事ぶりを伝え、歴史的な伽藍景観を形成。築年代は棟札による。棟梁は笠原治七。

 

山門の特徴

 切妻造桟瓦葺、二軒繁垂木の薬医門で、袖塀に潜りを設ける。正面蟇股は精緻な龍を彫り、内部に小組格天井を張る。鐘楼棟梁の弟子の作で、地元大工の仕事ぶりを伝え、百々ヶ峰を背にして地域の歴史的景観を形成する。築年代は梁墨書による。棟梁は村瀬省吾。

 

 耐震改修を経て、国の登録有形文化財に指定された真龍寺ですが、住職や門徒、地元の業者など地域の人々に愛されているのが、山門を潜って境内に足を踏み入れた瞬間に感じることのできる空間でした。